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⑥ 動機
「よくわかったよ」康正は空になったグラスを見ながらいった。「佃が園子を殺害する理由もあの時わかった。しかしどうして、結婚しようとした弓場を犯人にする必要があったんだろう。そこまでする必要があったのか……」
康正は考えた。
「どうして弓場を犯人にしなければいけなかったのか。佃の動機を考えれば見えてきます」
「動機か」
康正は考えようした、がやめた。加賀の顔を見ると彼は話しはじめた。
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佃の父親は、大手出版社の社長でした。家は等々力の高級住宅地の中にあり(28)、西洋風の見事な家です。佃潤一は長男であり、将来はその出版社の社長になる可能性もあったと思います。
佃は大学を卒業後、絵で生計を立てようとしましたが、失敗しました。その時、園子さんと知り合っています。
園子さんに佃を紹介された弓場は、園子さんに内緒で佃と付き合いはじめます。二人の仲を知った園子さんは、本人たち(佃と弓場)だけでなく、佃の両親にも弓場のビデオを送り、世間にも公表すると脅しました。
佃の父親の会社は大きな会社です。園子さんの行動は、佃潤一だけの問題では収まりません。行動を阻止する方法として、園子さんとお付き合いしていた時に聞いた、あの自殺方法で殺害することを佃は思いついたのでしょう。
佃が最初部屋に訪れたのは、園子さんを殺害し、偽装して自殺したと思わせることでした。
ゴミ箱から発見された園子さんの手紙(299)ですが、佃はそれも利用しようとしていたかも知れません。文章の一部を切り取れば、遺書に見える箇所があります。「今日、不意に何もかもが空しくなりました」捜査の時に和泉さんが言っていた、孤独を感じて自殺したんじゃないか、という理由付けにできそうです。
しかし、彼は遺書としてそれを使わなかった。
佃が寝室で園子さんの自殺を偽装しているとき、弓場が侵入してきました。
佃は、自分が園子さんの部屋でしていることを弓場に目撃された。とっさに、殺害を思いとどまったと弓場に伝えます。見つけた手紙で弓場に片付けている途中だと印象付けることにも成功しました。
しかし、弓場を見た佃は、彼女が園子をOL殺人に偽装して殺害しようとしていたことを知ります。お互いに園子を殺害しようとしていたわけです。
佃はどう感じたでしょう。 いろいろな考えが頭を巡ったと思います。
弓場が、いかがわしいビデオに出演したこと。
園子さんに過去をばらされるといわれて、親友を殺そうとしたこと。
ビデオの件は過去として吹っ切ったといっていましたが、実際はどうでしょうか、将来も同じように誰かに脅されることがあるかもしれません。
弓場と付き合うことは同じ危険がまた起こる可能性があります。
さらに親友を殺そうした弓場です。自分の命も脅かす可能性もあると考えたのではないでしょうか。
実際、弓場とは別れたいと思っていたのでしょう。もしくは、園子さんの部屋で殺意を持った弓場と会ったとき、別れることを決心したのではないでしょうか。
別れたとして、二度と付き合わなくても済む方法。それが、園子さんの殺害を弓場に擦り付けるということだったのだと思います。
佃にとって、自分の将来を不安にさせた園子さんと弓場。
二人と完全に決別する。それが動機だったと考えます。
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加賀は佃の動機を話し終えた。
⑦ につづく
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コメント
コメント一覧 (2件)
最近この本を読んで犯人が解らなく…こちらに来させていただきました。
利き手を一生懸命考えたのですが…やっぱり解らなくて単純に353ページの
犯人が絶叫した。犯人でないほうも悲鳴をあげた。で犯人は康正さんかな…と思いました。自分で考えるのも楽しいのですが…
やっぱり犯人ははっきりわかりたいなと思いました。
はっきりと作者からこの人が犯人だと指摘してもらえるのが一番ですよね。
この本では私もいろいろ考えることができてとても楽しかったです。
今年(2023年)9月に続編(同じスタイルの小説)がでるのでとても楽しみにしています!