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⑤ 行動
これより読み進めると犯人が特定されます。
犯人を自分で推理したい人は、読まないでください。
康正が本編でどう推理したかは ⇒ コチラ
「俺が特定した犯人は間違っていなかったのだろう」康正は訊いた。
「間違っていませんでした」
「よかった」康正はほっとした。「利き手が重要な証拠だった。犯人は右利きの人物。証言から包丁を使っていたのは佃で、右利きとわかった。分からなかったのは、弓場の利き手だった。弓場が左利きならば、佃が犯人。加賀さんのヒントから、薬袋を破った様子を思い出し、弓場が左利きと確信して、俺は右利きの佃を犯人と特定した」
康正は加賀の顔を見たが、 彼は何もこたえなかった。
「佃は園子を殺し、弓場を犯人にしようとしたわけか」
康正は考えを巡らせ、グラスに入ったビールを一気に飲み込んだ。
「和泉さん」康正の思考を止めるように加賀は声を掛けた。「ここで改めて当時の確認をしましょう」
康正は戸惑ったが、彼が何を話すのか気になり、頷いた。
————————–
「佃が園子さんの家から出て行ったあとの弓場の行動を確認しましょう」
一人、園子さんの部屋に残った弓場は、ワインボトルに睡眠薬が入っている可能性があると思い、残りを捨てキレイに洗い、そして、ゴミ箱へ捨てます(335)。流しにあったグラスも中身を捨て水ですすぎ、片付けます。水栓のコックには指紋がありませんでしたので、園子さんを殺害しようとしてはめてきた手袋を付けたまま作業をしたと思います。
ワインボトルの睡眠薬のことを気遣った弓場なので、おそらく睡眠薬の袋も回収したと思います。そうすれば、園子さんは睡眠薬を飲まされたと気づくことはありません。ワイングラスを残したのは、園子さんが目を覚まして、もう一度、何も知らずにワインを飲んで寝るといいと思ったのでしょう。
それから、弓場は玄関に戻り、靴を脱ぎ土足の跡を拭きます。小さな砂や土は足跡さえなければ十分と考えたのだろうと思います。園子さんもいつ目を覚ますか分かりません。急いでいたと思います。自分が進入した痕跡を消したのですから、当然、ビニールロープも回収したと思います。だいたい、ビニールロープを床に置いたり、落としたりした可能性はかなり低いと考えます。佃に見つかったとき、弓場も驚いたはずです。自分の殺意が悟られないように、とっさにポケットなどにしまったと考えるのが自然でしょう。
ここまですれば、園子さんが目を覚ましたとき、コードの不自然さは考えるかも知れませんが、弓場が訪れたことに気がつくことはありません。佃が残したメモを見て佃が帰ったことを知るでしょう。
弓場はam0:20園子さんの部屋を電気を消して出ました。am1:30自分の部屋から佃に電話します。佐藤さんの証言からはam2時ですが、どちらでもいいでしょう。
鍵は園子さん殺害に必要だった物です。思いとどまった時点で必要なくなり、園子さんの部屋を出るとき郵便受けに返しました。
それから土曜日、弓場は心配になり、園子さんに何度も電話をして、鍵を持っていない弓場は佃と一緒に園子さんの部屋を訪れました。そして、園子さんが死んでいるのを見つけました(337)。
「弓場の行動はこれで間違いないと思います」
加賀が同意を求めるように康正を見た。康正は頷いた。
「佃の行動も確認しましょう。佃の部屋から佐藤さんが帰ってからの佃の行動です。すなわち犯行時の行動です」加賀はいった。
深夜。佃は園子さんの部屋に再び戻ります。
園子さんはまだ寝ていました。佃はゴミ箱からコードを取り出します。自分でゴミ箱に捨てたのは、そのままにした場合、弓場が持ち帰ってしまう可能性も考えたからでした。
コードを胸と背中に取付け、タイマーに差し込みます。ダイヤルを回し、電気を流します。死んだのを確認して、電気を一端止め胸のコードを少し外します(145)。改めて、タイマーを1時にセットしておきます。
ここで、コードをとめた絆創膏ですが、最初の自殺偽装の時は何を使って留めたかわかりません。
先程も検証しましたが、もし警察が園子さんを最初に発見した場合。1回目の自殺偽装は佃がやったと、警察に弓場も証言する可能性があるので、それを裏付けるためにも、弓場が手の届かない所にある救急箱の絆創膏を利用しました。
2回目以降はそれを利用すれば、背の低い弓場でも絆創膏を使える。絆創膏は佃が、自身を守るアイデアだったと考えます。
そして、小さい皿の上で写真とカレンダーを慎重に燃やします。それから部屋の中を確認して、寝室の隅にビニール紐を落として、部屋を出ました。
「ここからの行動は考えなくていいですね」加賀は確認してきた。
「ああ、そうだな」康正は目を閉じた。「改めて、園子が殺された状況を聞かされると辛いな」
康正は手元のグラスに入ったビールを一気に胃袋に流し込んだ。
⑥ につづく
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