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②「どちらかが彼女を殺した」のつづき 加賀恭一郎編【ネタバレ】

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目次

②「どちらかが彼女を殺した」加賀恭一郎編

 

2日目(187) 12月?日(火曜日) 前編

朝刊に園子の記事が小さく載っていた(p100)。動機は、都会の生活に疲れたようなことを、本人が家族に漏らしていたらしい(p113)。ということになっていた。

加賀は(p44)某電子部品メーカーの東京支社が入ったビルの前にいた。
受付で警察であることを伝えた。来客室に案内され待っていると、園子の上司という係長の井出と課長の山岡が現れた(184)。挨拶を交わすと、課長の山岡から話してきた。
「朝刊の記事を見て、驚きました」彼の目は好奇の色をしていた。「まさか、うちの和泉君がこんなことになっているなんて。彼女昨日、休んでたので。今まで無断で休んだことがなかったので。原因は新聞に書かれた通りだったのですか?」
刑事を前に山岡は興奮しているようだった。



「ええ、まぁ」
加賀は曖昧な返事をした。再び山岡が何か言おうと口を開いた所を、加賀はそれを遮るように手を挙げた。山岡は残念そうな顔をすると聞く姿勢になった。
「和泉さんと親しくしていた人がいれば、その方からお話しを聞きたいのですが」
井出と山岡は少し言葉を交わした。そして、井出が席を立った。誰かを迎えに行ったらしい。加賀は、山岡が話題を振ってこないよう、会社の業務内容などを訊き、相手が気持ちよくなるような相槌を打って、井出の帰りを待った。
来客室の扉が開いた。井出が小柄で童顔な女性(185)を連れて入ってきた。
「総務課のササモトです」井出が紹介した。
名札には笹本明世とあった。井出は椅子を引き座ろうとした。加賀はそれを制するように手を挙げた。
「ここからは、彼女だけで結構です。業務に支障を来たしては申し訳ありませんから」
井出と山岡は顔を合わせた後、頷き二人は退室した。加賀はお礼をいった。
「遅くなりました。私は練馬警察署の加賀恭一郎といいます。よろしくお願いします」加賀は頭を下げた。
「あたし和泉さんとは特別親しかったわけじゃありませんので、細かいこと聞かれてもわかりませんよ」
彼女はイラついた口調をして、時計を見た。
「特別なことはお答えいただかなくて結構です」加賀は言葉を止めると、鞄の陰から箱を取り出した。「こちら近くのお店で買ってきたので、よろしければどうぞ」
箱にはケーキで有名な店の名前があった。時計は10時を示していた。笹本の顔色が明らかに変わった。
「このケーキ。かなり並んだんじゃない。えっいいの?ありがとう」
彼女は自分の方に箱を引き寄せた。
「私、行列に並ぶのが趣味なんです」
加賀は笑顔で答えた。手帳を開き、目を落とした。再び顔をあげると真剣な表情に変わっていた。



「では、改めてよろしくお願いします」
「はい」彼女は素直に答えた。
「和泉さんとの関係を教えてください」
「彼女とは、入社が一緒でした。でも、会社ではお昼に一緒にご飯を食べたりしたぐらいです。特別なことはありません。たわいもない日常の会話をしていた程度です。一度か二度、和泉さんの部屋にお邪魔したことありますが(185)、遊びに行った程度です」
「そうですか。では、和泉さんの今回の動機についても心当たりはありませんか」
「新聞で『都会の生活に疲れた(113)』と書いてありましたけど、そうだったのかって思いました」
「最近の様子はいかがでしたか?」
「今日の記事を見て、みんなとも話してたんですけど、先週くらいから、話しかけても返事がなかったり、簡単なことでミスしてたりしたみたいです」
「先週のいつぐらいからか分かりますか」
「和泉さん、先週の火曜日に休んだんです。体調が悪いと連絡がありました。その後からだったと思います(137)。火曜日に何かあったんでしょうね」
「でしょうね」笹本は加賀が何か言うか期待したが、同意しただけだった。
「和泉さんは体調が悪いということでしたが、お酒でということは今までありましたか」
「それはなかったと思います。お酒は好きみたいでしたが、たしなむ程度だったと思います」
「そうですか」加賀は頷き質問した。「和泉さんはワインがお好きなようでしたが、ご存知でしたか?」
「そういえば、そんな話を和泉さんから聞いたことがある気がします」
「和泉さんから直接聞いただけなのですね。すると、それは社内で特に有名な話しではなかったのですか?(186)」
「ええ、他の人は和泉さんがワイン好きなのは知らないと思います」
加賀は手帳にメモをした。ワインの送り主から会社関係者を除外した。
「ワインが何か関係があるのですか?」笹本が興味深そうな表情をして訊いた。
「ああ、お気に掛けないでください。園子さんの部屋を拝見した時、ワインがあったので、昨日、お兄さんと話題になったんです」
「そうですか」笹本は興味をなくしたようだった。
「お兄さんの話題がでたので、お聞きします。和泉さんの家族のことで何かご存知ですか?」
「ええ。和泉さんの部屋に遊びに行った時、愛知県にいるお兄さんだけが肉親だと聞きました」
「お兄さんとはお会いしたことありますか?」
「いえ、でもきっと素敵なお兄さんだと思います」
加賀はメモをする手を止め、視線をあげた。笹本は続けて話した。
「和泉さんはお兄さんに部屋の鍵を一つ預けているといっていました。とても信頼していたのだと思います。普通なら親にも預ける気にはなりませんから」
「そうですか。素敵ですね」加賀は笑顔で同意した。
「ホント、いいですよね。そういえば和泉さん、兄に預けたおかげで鍵が一つになったから予備にスペアキーを2つ作ったっていってました」



加賀は手帳にメモをした。園子の部屋の鍵は合計で4つ存在する。園子の部屋から見つかったのは鍵が一つ。康正が持っているのが一つ。あとの二つの所在がわかっていないことになる。
「スペアキーを二つですか」加賀は呟いた。
「普通はひとつでいいですよね。あたしも和泉さんに突っ込んで聞いたことがあります。でも彼女ははぐらかして、何も言ってくれませんでした」
「あなたは、どう思いました?」
「彼氏がいたんだと思います」笹本は噂話をする女性の顔になった。
「はっきりと分からなくて結構です。噂になったりした人はいましたか?」
「和泉さんは内緒にしていましたけど、ここの会社と同じビルに建築会社があるんですが。そこの社員(p116)と付き合っていたと思います」
加賀は建築会社の会社名を訊き、手帳にメモした。
「付き合っていたのは、いつ頃のことですか?」加賀は質問した。
「3年以上前だったと思います」
加賀は笹本に礼をいった。充分親しい関係だと思ったが口には出さなかった。
笹本はケーキの箱をうれしそうに抱え、職場へ戻っていった。

加賀はエレベーターに乗り込むと、他の階のボタンを押した。その階には先程笹本から聞いた建築会社が入っていた。

建築会社では、社長が応対してくれた。
「こちらのビルに入っている電子部品メーカーの女性社員の方が、何年か前にこちらの社員の方とお付き合いされていたと聞いたのですが」加賀は訊いた。
「ヨシオカオサムのことですね(p116)」社長は即答した。「彼は3年前に実家の商売を継ぐということで、今は福岡です。この会社を辞めることになり、とても残念でしたが、彼は結婚するかもしれないと話したので、こちらも喜んで送りだそうと思っていたんです。とても印象に残っています。結婚式の際には慶事をお願いしますと頼まれていました。彼女のことを訊くと、そちらにお勤めだといっていました」
「なるほど、それは印象深いですね」加賀は頷きながら手帳にメモをとった。「その後結婚の話は?」
「詳しくは聞いていませんが、その後話はなかったので、なくなったのでしょうね」
十分な収穫を感じた加賀は、手帳を閉じ礼をいった。最後にヨシオカの連絡先を訊いた。年賀状のやりとりがあるということで、福岡の住所と電話番号を聞くことが出来た。



ヨシオカには簡単に連絡が取れた。園子とは3年前くらいに別れたということだった。彼は東京を去る時、福岡に一緒に来てくれるように誘ったが、彼女は首を縦に振ってくれなかった。それで彼は一人で地元に帰ったということだった。最近は連絡をとってなかったらしい。
「付き合っていた当時のことで結構です」加賀は訊いた。「園子さんには親しいお友達はおみえになりましたか」
「ええいましたよ」
ヨシオカの返事に、ペンを持つ手に力が入った。
「お名前は?覚えてますか?」加賀は訊いた。
「確か名前は…」声が途切れた。少し考えたらしい。「ユバカヨコさんです」
加賀は詳しくユバのことを訊いた。
漢字で弓場佳世子と書いた。園子とは高校からの同級生。大学を卒業後、保険の仕事をしていて、学生時代は芸能界のオーディションを受けたこともあるらしい。美人ということだった。園子と別れてからは弓場とも連絡していない、ということだった。
「質問してもいいですか?」ヨシオカは訊いた。
「どうぞ」突然のことで、加賀は驚いたが了承した。
「園子さんの自殺についてなんですが、どういった方法だったのですか?」
「方法ですか」加賀は答えようとしたが、言葉を濁した。「ヨシオカさんは何かご存知で?」
「ええ。彼女は眠っている間に死ねる方法があるといっていました(p81)。そんな話し止めろよ、といって具体的には聞かなかったんですが」
「そうですか」加賀は一拍して言葉を続けた。「園子さんは、眠ったまま死にました」
ヨシオカは言葉にならない落胆の声を漏らした後、礼をいった。その後葬儀の日程を聞いてきた。加賀は答えると礼をいって電話を切った。

加賀は手帳にバツ印を記した。そこには孤独と書かれていた。
そして、弓場佳世子の横に『親友』と記入した。すぐにでも連絡を取ろうと考えたが、康正は園子に親しい人間がいないと答えていた。高校からの友人を康正が知らないのはおかしい。園子と近い人物に早々に会うことは、康正を刺激する可能性があったので、加賀は周囲から情報を集めることに決めた。


③ につづく

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