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聖母のつづき 谷崎の章【ネタバレあり】

秋吉理香子著 聖母

(はじめに)
こちらは秋吉理香子さん著「聖母」のつづきを勝手に考えたものです。

目次

(はじまり)聖母のつづき 谷崎の章【ネタバレあり】

19

坂口と谷崎は、マンションのエントランスに到着すると、目的の番号のあとに呼び出しを押した。
しばらくすると、あの通報者の女性の声がスピーカーから聞こえてきた。ロビーの自動ドアが滑らかに動き、二人を迎え入れた。
女性の名前は、田中保奈美といった。
蓼科秀樹が今回の幼児連続殺人の犯人であり、自室で自殺したこと、部屋には幼児二人の写真、遺体の一部が見つかったことを事前に電話で伝えてあり、訪問も許可を得ていた。

目的の部屋の前に到着し、谷崎はインターホンのボタンを押した。
「はーい」
小気味いい声と共に玄関ドアが開かれた。
顔を覗かせたのは、田中真琴だった。
「あっ、田中くん。君の家だったんだね」
真琴の表情は、先程見かけた強張ったものとはうってかわり、柔らかさをたたえており、微笑んだ幼女を抱きかかえていた。
「ええ、そうですけど、ここではあれですので中へどうぞ」
失礼しますと告げ、中にあがるとダイニングに通された。
「ああ、刑事さん。わざわざすみません」
保奈美がキッチンから顔を覗かせたあと、ハーブティーとお菓子を二人の前に用意してくれた。
「お構いなく」
谷崎が申し訳なさそうにいった。
心地いい香りが鼻孔を刺激する。気持ちが安らかになるようだ。
保奈美は自分のカップを手にして席についた。

「突然、すみません」坂口が頭を下げる、それに続き谷崎もさげた。「電話でも報告させていただきましたが、先日、お話のあった不審者。蓼科秀樹なのですが、今日の未明に自殺していたのが発見されまして、改めて田中さんの目撃情報を聞かせて頂きたいと思い、お邪魔させていただきました。」
「あの時のことですね」保奈美の顔が曇る「刑事さん達には本当に申し訳ないことをしました。実は、ワイドショーを見てあの男が犯人に違いないと思い想像で電話を掛けてしまいました」
「やっぱり、想像だったのですね」谷崎がメモする手をとめて訊く。
「はい、私にも小さな子どもがいるので心配になり、どうかしていたのだと思います。今はあの男が自殺したと聞き落ち着きました」
谷崎はメモを取っていた手帳を閉じ、坂口と目を合わせ頷いた。幼児殺害事件に関して、これで自分達の任務は終わったことになる。想像だと言われてしまえば、それ以上何を聞き出しても意味はない。
「どうぞ、ハーブティー。お飲みになってください」
聴取が終わったと感じ、保奈美も安堵したのか表情が柔らかくなった。
「ドーナツたべるぅ」
甘えた声がリビングから聞こえたと思うと、先程見た幼女が保奈美に近づいて来た。それを追う形で真琴も姿をあらわした。
「ダメでしょ!薫」
真琴は刑事二人に頭を下げた。幼女の名前はカオル。どうやらここの娘さんらしい。
「いえいえ、こちらこそ突然お邪魔してるので、お嬢ちゃんごめんねー」
谷崎が笑顔で接する。真琴は薫を抱きかかえると頭を下げキッチンに消えた。
「ごめんなさい。バタバタして」
保奈美が謝ると、
「みんなと食べるの!」
キッチンから大きな声が響いた。薫が谷崎と坂口にもドーナツを危なげな手つきで渡してくれた。
「ありがとねー。カオルちゃん」
谷崎は笑顔で受け取ると、カオルも笑顔になった。
薫を抱えて真琴も席についた。ダイニングに全員揃って、ドーナツを食べ始めた。
「美味しいですね」谷崎は素直に感激した。
「ええ、この子が大好物なんです。ねー」保奈美が薫の頭をなでながら言う。
「おいしいねー、ママ」薫はドーナツを両手でしっかり持ちながら真琴を見上げた。真琴は薫の口の周りについた食べかすを取って口に含むと、笑顔を返す。
幸せな家族がここにあった。

愛情に満ち溢れた理想的な家族の姿。これ以上蓼科秀樹の話題を出すのもはばかれる感じがして、どうして、蓼科のことを知っていたのかを聞くことはやめた。

その後、家族構成、年齢などたわいもない会話をして田中家を後にした。
「さあ、帰るとするか」
「はい」谷崎は大きく足を進める坂口にパンプスをコツコツ鳴らしついていった。

藍出署に戻り、最後の捜査会議の席についた。
証拠品が次々に上がり、蓼科秀樹の犯行を疑う余地はなさそうだった。アリバイについても死亡推定時刻と合わせて再度検証がされることとなった。
被疑者死亡で所轄での捜査となり、捜査本部は解散された。

谷崎と坂口も警視庁捜査一課へと戻り、新たな事件の担当となった。

廊下にコツコツと小気味いい音が響く。
ドアを開け、端末の前に座ると電源を入れた。
キーボードを叩き入力した。
「蓼科秀樹」
該当者は1名。クリックした。
4年前の婦女暴行事件の詳細が画面に表示される。
被害者は、中学生から高校生の女性の二人。
知らない女性の名前だった。

調書には、犯行の様子、供述内容が詳しく書かれている。
気分が悪くなり何度もやめようかと思ったが、必死にこらえ読み続けた。

非道な行為に、被害者の心情を優先して報告されない場合も多い。2件の被害の裏にどれほどの女性が泣き寝入りしているのか考えると辛くなった。

画面を見つめる。
文字が霞んで読めなくなっていく。
熱いものが頬を伝い。
嗚咽がでそうなのをこらえるため、手を口に当てた。
背中が小刻に震える。

──魂の殺人
強姦は、魂を殺す。肉体を殺す。未来を殺す。

「田中真琴」
の文字が画面にあった。

被害者が訴えていないので立件はされていないが、母、田中保奈美が相談に訪れた際のことが書かれていた。

内容を読む前に、端末の電源を落とした。
大きく深呼吸すると、部屋を出た。

「おお、谷崎くん!」
背後から声が響く。無視して歩きだすと足音が追いかけて来た。
「ストーカーで訴えますよ!」
笑顔で振り返った。

(あとがき)聖母のつづき 谷崎の章

矢口由紀夫と三本木聡の家族のことは、考えないことにしました。小説でも父親犯人説以外はそちら側のことには触れていないので、
(将来強姦魔になると思えば、しょうがないかなと)

刑事二人が田中家で話す内容も、防具袋を2つ持っていることの追求や、由紀夫がテツヤの知り合いで見学に訪れていたのを知っていたかなど、聞き出したい気もしたけど、これから幸福になって欲しいと思いやめました。

ただ、谷崎には隠し事はできないだろうと、捜査ではなく、自ら本当の真相を組み立ててもらうようにしました。
真琴が被害者だと知ったら、会話で薫が真琴のことを「ママ」と呼んだこと、犯行の年、年齢さえわかれば自然と組み立てるだろうと。

──魂の殺人
強姦は、魂を殺す。肉体を殺す。未来を殺す。
3回も殺された真琴。

真琴を救うことができるのは、保奈美しかいない。
田中家に平穏な日々が続きますように。

強姦魔と戦った辛い物語。

他にも、二人から追求を受け真琴が犯人として連行されそうになり、最後に靖彦(父)が刑事を轢き殺すのは、っていう父も娘を命がけで守っているというイヤミス的なのも考えたけど、やめましたw

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秋吉理香子著 聖母

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