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その3 神林貴弘の章
僕は美和子のことがわからなくなった。駿河直之が薬を仕込んでいたと落ち着きそうだったのに…、加賀刑事がせっかく答えをだしてくれて、また僕と美和子は今まで通りの生活に戻れると思ったのに……。
「やっぱり神林さん」雪笹香織の声でみんなが僕の方へ目線を向けた感じがした。
僕は黙っていた。
「あなた、カプセルを持っていたのでしょ」雪笹香織が言った。
「いつ仕掛けたって言うの」美和子が遮った。僕のために美和子が必死になって庇ってくれた。本当にうれしかった。美和子の姿が霞んでいくのを感じた。
(P118・P420)結婚式の前日、僕はカプセルを猫に与えた。そしてその効果を確認した。カプセルはもう一つポケットの中にあった。しかしそれは、瓶の中に入っていた。加賀刑事は僕の言ったことを素直に受け入れてくれた。(P118・P249)本屋に寄り、コンビニに寄ったのは、もちろん事実だ。ただ、もう一つ寄ったところがあった。それは薬局だ。
リビングボードの前にいた浪岡準子が、ピルケースらしきものにカプセルを入れるとき、彼女は瓶からカプセルを取り出した。その様子を見て、僕は思い出した。
それは当時、美和子が穂高誠と付き合いだしたとわかったときのことだった。美和子が誰かと付き合いだしたことを受け入れられなかった僕は、彼女が会社に行っている間に、美和子の部屋に入った。そして、ライティングビューローの引き出しの中を覗いた。僕は美和子がもっているのを見たことがないものを発見した。それは薬瓶だった。その時見た薬瓶と浪岡準子が持っていた薬瓶は同じに見えた。
薬局で探すと、その薬はすぐに見つかった。その後すぐに僕は、コンビニに向かった。店内に入り、商品棚の前をなんとなく歩く。不安が押し寄せてくるのを感じた。これから自分がするかもしれないことへの不安。アーリー・タイムズの小さなボトルを持つ手が震えていた。
コンビニを出た後、僕は猫に出会いカプセルを与えて、効果を確認した。
孤独を感じた僕は(P119)、近くのベンチに座った。さっき手に入れた薬の箱を破り瓶を見ると、中には浪岡準子が仕掛けたカプセルと同じものが入っていた。僕は複雑な気持ちになった。何をしようとしてるんだ。穂高誠の家でゴミ箱からカプセルを拾い上げたときと同じ気持ちが蘇った。気がつくと僕は、瓶からひとつカプセルを取り上げていた。そして、そのカプセルの代わりに浪岡準子のカプセルを瓶の中に入れた。僕は瓶に蓋をしてポケットに入れた。
(P121)日本料理店で美和子と食事をした時、彼女は薬瓶を僕の前に置いた。僕は美和子が鼻炎薬を使わないことを確認した。以前彼女の部屋でその薬を見た時、彼女の薬だと思ったからだ。穂高誠しか飲まないことを彼女は告げ、(P122)薬瓶を僕の手に残して彼女は席を立った。自分のポケットの中身を思い出した。ポケットから薬瓶を取り出し、並べた。見つめていると、自分が出した薬瓶のカプセルの量が気になった。カプセルを2個取り出しポケットにしまった。もう一度、片手に並べて瓶を見つめた。強い衝動に駆られる。意識が朦朧としたときだった。
「おかわりいかがですか」急須を持った女性がすぐそばに立っていた。
突然掛けられた声に驚いて、無意識に瓶を持った手をポケットにしまった。さらに焦ってしまい。ポケットから手を出して、いいえ結構ですと僕は言った。
女性が立ち去った後、僕は焦った。ポケットから薬瓶を取り出した。どちらも10錠になった薬瓶は、どちらに浪岡準子のカプセルが入っているかわからない。どうすることもできないまま顔をあげると、店の奥の御手洗いから帰ってくる美和子の姿が見えた。毒入りかもしれない薬瓶をひとつ美和子に渡した。美和子はそれを受け取り、薬袋の中に入れた。
部屋に戻ると、さっき見た美和子の笑顔を思い出そうとした。しかし、思い出せなかった。ベッドに倒れこむように横になった。大きな不安が浮かんできた。ポケットから3個のカプセルと薬瓶を取り出した。それらを見詰めながら、
「この中に毒入りカプセルはあるのか」
一人呟いた。見ただけではわからない。ベッドから起き上がり、椅子に腰掛けてアーリー・タイムズの栓を開けた。
結婚式当日、穂高誠が死ぬまで、僕は美和子の薬瓶に近づくことができなかった。
穂高の死後、僕にはやらなければならないことがあった。(P155)雪笹香織と一緒に美和子をスイートルームへ運んだ。それから美和子のことを雪笹さんに任せ、僕は部屋を出た。その行き先は新婦控え室。幸い控え室には誰もいなかった。部屋の隅に美和子の(P164)普段着と一緒にバッグはあった。僕のポケットの中にあった薬瓶とバッグの中の薬瓶を取り替えた。
どうして取り替えたのか。僕は考えた。すごい確率でそれは起きた。僕がすり替えたカプセルを飲んで、穂高誠が死んだのだ。そうすると、美和子のバッグには僕が用意した薬瓶が入っていたことになる。薬瓶には、僕の指紋と美和子の指紋しかついていない。このままでは、僕と美和子が警察から疑われる可能性が高い。ポケットの中の瓶は、昨日まで美和子が持っていたものだ。他の人間の指紋もついているかも知れない。とにかく、これをバッグに戻すのが一番いいはずだ。美和子がピルケースに1個入れていたことを思い出し、瓶のなかから、カプセルを一つ抜き薬瓶をポケットに入れた。瓶の中身は9錠になっていた。
荷物を美和子の所へ持っていくことも考えたが、医者を連れてくる、と雪笹香織に言ったことを思い出し、やめた。 荷物を持っていくと、新婦控え室に行ったことがばれ、死因がカプセルと判明した時、僕が疑われる可能性が高くなるからだ。
薬瓶を取り替えて部屋の外に出た。幸い誰にも会わなかった。
(P156)スイートルームを出てから20分後、医者を連れて僕は戻った。
雪笹香織が帰ったあと、僕はポケットに入った薬瓶をとりだして、カプセルの数を数えた。おかしい。何度も数えなおした。僕は焦った。カプセルが減っていない。瓶の中には10錠のカプセルが入っていた。どうして…。カプセルが減っていないのに穂高誠は死んだんだ。よくわからない。控え室で美和子は確かに薬瓶から1錠取りだし、ピルケースに入れたのを見た。僕は数について考えるのをやめた。穂高誠はいったい何を飲んだんだろう。
穂高が飲んだ物は(P209)警視庁捜査一課の山崎刑事から聞いた。やはりあのカプセルだと判明していた。
僕が寄った薬局のことが加賀刑事に分かっていないのが少し不思議だった。彼は浪岡準子が購入した薬局を2・3日掛けて調べ上げていたのに。僕が薬を手に入れた薬局を見つけ出せないでいた。ただ、理解できる点もある。あの鼻炎薬は、レジを通過していなかった。
あの日の僕の行動を美和子は知らない。
「美和子ありがとう」
僕は雪笹さんから庇ってくれている美和子らしき白い影を見て言った。
穂高誠は僕から見れば、死んでも当然だ と思った。
あいつが死んだ時の美和子の姿を思い出す。美和子の取り乱した姿。美和子にとって、穂高誠は過去を振り払う大事な人だったんだ。
僕は美和子のことを考えていなかったことに気が付いた。
君の大事な人を僕は殺した。
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