[widget id=”custom_html-11″]
このページは小説の途中です。
最初から読む場合はこちらをクリック
⑦(完)「どちらかが彼女を殺した」加賀恭一郎編
12月?日(日曜日)
康正は少し落ち着きを取り戻し、再び口を開いた。
「肝心なことを聞くのを忘れていた。薬袋から犯人が特定できないことは分かった。すると、君はどうやって犯人を見つけたんだ。弓場と佃を見つけ出したことにも驚いたが」
加賀は姿勢を正すと、話し始めた。
「私にとって、和泉さんが知っている情報が全てではありません。当然それはわかっていると思います。あなたが調査できない範囲からも、私は情報を得ることができます。それらの情報からは、あなたの嘘も簡単にわかりました」
康正は申し訳なさそうな表情をした。加賀は続けた。
「昨日、私は佃のアリバイをあなたから聞きました。和泉さんは論理的に佃のアリバイを崩したみたいですが、その後、私は単純な方法でアリバイを崩しました。佃のマンションの管理人にセキュリティカメラのビデオを確認させてもらった所、10時と深夜1時頃に彼が映っていました」
「奴はそんな間抜けなことをしていたのか」
「ある意味、完璧な結果を追求したために、単純な所にほころびが出たのでしょう。」
康正の体から力が抜けていくのがわかった。
「しかし」加賀は語気を強めた。康正が再び聞く姿勢になった。「このことは、佃が自殺を装って園子さんを殺そうとし、断念したということを裏付けるだけです」
「そうだ、その時点では園子は殺されていない」康正は再び体を起こした。
「今日、園子さんの部屋で、私はたくさんの情報を得ることができました。あなたが隠してきたものも、初めて知ることができた」
「その中の情報から、君は犯人を特定したわけだな」
「そうです」加賀は頷いた。
「睡眠薬の袋は、関係ない」
「全く関係ありません」加賀はきっぱりいい切った。
康正は俯き考える表情をしたが、思いつかない様子だった。
「わからなくて当然です」加賀の言葉に康正は顔を上げた。
「証拠は」加賀は言葉を続けた。「やはり、佃のマンションの防犯カメラにありました。深夜2時を過ぎてから一人の女性の姿が映されていました。映像は上部から撮影しているため、容姿から女性であることはわかりましたが、身長は分かりませんでした。私はその女性が佃の知り合いかもしれないと思い、調査する予定でしたが、それをする前に今日この出来事に遭遇したわけです」
「身長がわからなかったというけど、影からわかるんじゃないか。背が低ければ弓場だな」
「それも考えました。しかし、エントランスという場所はライトアップが激しい場所です。深夜といえども、佃のマンションは豪勢にたくさんの照明が各方向から照らしていました。ちょうど、手術の無影灯の状態で判断できなかったのです」
「言葉を挟んでわるかった。続けてくれ」康正は黙った。
「今日、園子さんの部屋に来て、私は弓場と佃の姿を確認しました。二人が着てきた上着とコートが床の上に置かれていました。私はそれを目にしたとき、内心驚きました」
加賀が犯人を判断したのは何だったのか、その言葉を期待する姿勢を康正はとった。
「私が犯人を特定したのは」加賀は言葉をためた。
「弓場のフード付の白いコート(275)です」
康正は意外という表情を浮かべた。加賀は続けた。
「それはまさしく防犯ビデオに映った物と同じでした」
そうだったのか、という顔の康正。
「ビデオに映った姿は弓場だった訳か」
「単純に考えればそうなります。しかし、園子さんの部屋で起こった二転三転する証言から考えて、弓場はあの日、佃のマンションには訪れていません。私は昨日、ビデオを巻き戻して確認しましたが、その女性がマンションに入っていく姿は確認できなかったのです」
「マンションに入っていないはずの人間が出てきたということか」康正は考えた。「もしかして、その女は佃の変装か」
「正解です」加賀は大きく頷いた。「佃はひどく痩せた体型(14)でした。ビデオに映った姿は、女性にしか見えませんでした。胸を膨らませ、スカートを履いていました。昼間だと違和感があるかもしれませんが、夜だと気づく人も少なかったと思います。佃は2時過ぎに外出していたのです」
「なるほど」康正は感心した目を、加賀に向けた。「それで、どうして弓場がそのコートを着ていたんだ」
「それのことについては想像ですが。その後、佃は弓場にプレゼントしたのでしょう。クリスマスも近かったので用意してあってもおかしくありません。あるいは、元々弓場のものであり、佃の部屋に忘れてあったのではないかと考えます。コートであれば背の高さが違っても、痩せていれば着ることはできると思います。スカートなども佃の部屋に置かれた弓場の物であった可能性があります」
加賀の言葉に、康正は頷いた。
「そのコートを弓場は今日、着てきてしまったんだな」
康正はつぶやいた。加賀は頷くと口を開いた。
「それは偶然だったのか、あるいは、佃からのプレゼントであったのなら、それを弓場は身に付け、守ってもらおうとしたのか、その心理はわかりません」加賀はそこまでいうと言葉を切った。「佃の思惑も知らないで」加賀はつぶやいた。
「どういうことだ」康正は訊いた。
「佃は弓場に罪をなすりつけようとしていたのです。あのコートを来て防犯ビデオに映り、それを弓場に渡した。それは、全て弓場をはめようとしていたことだと考えられます」
「佃が作りあげた現場を俺が破壊しなかった場合、そのことも弓場をはめることに利用したんだな」
加賀は頷いた。
「佃が10時に外出した際には、園子さんを自殺に偽装することだけを考えていました。防犯ビデオのことも、それ程重要視していなかったと考えられます。アリバイ工作に力を入れていましたから、佃は自分に似た人間じゃないかと反論できると考えていたのでしょう。しかし、そのアリバイも和泉さんによって見破られていた訳ですけど」
康正は頷いた。
「警察も甘く見られているな」
加賀は、そうですねと頷き話しはじめた。
「2度目、マンションの部屋から出た佃には目的が2つありました。それは園子さんを殺害することと。弓場をその犯人にすること。1度目に佃が園子さんの部屋に訪れたとき、弓場が園子さんを殺害しに来たことが、きっかけになったのでしょう。弓場と確実に別れる方法として、弓場を犯人にすることを考えたのだと思います」
康正は加賀の言葉を複雑な表情で聞いていた。そして口を開いた。
「俺は全く犯人の意図を理解していなかった。園子が殺されたんだと気付いたとき、犯人が偶然証拠を残したとばかり思っていた。しかし、それは犯人によって、意図的に残されていたんだな」
「意図的、もしくはどうでもいいことだったのでしょう」
加賀は康正に優しく声を掛け、話しを続けた。
「園子さんの死因が自殺だと警察が判断していると新聞に掲載されていたことに、一番驚いたのは佃でしょう。警察の無能ぶりに。たくさんの証拠を残したまま現場を後にしたはずでしたから」
「そして」康正は加賀の言葉を引き継いだ。「佃は弓場を犯人にすることを諦めた。二人で話した際に、弓場が園子のことを自殺したと信じ込んでいたから、自殺したことにしたんだな」
「そうです。佃も馬鹿じゃない。警察が自殺といっているのに、他殺といい張れば、自分にも疑いが及ぶことを知っていた」
加賀の言葉に康正は何度も頷いた。
「俺がもし、何もしなければ、君は佃をいつ逮捕していた」
「あなたと出会った、翌日です」
加賀は何ともいえない笑顔を康正に向けた。
康正も同じ笑みを浮かべた。
それは園子の葬儀に犯人を伝えることができなかったことを後悔しているようにも見えた。
(おしまい)
「どちらかが彼女を殺した」の続きを読む
康正と加賀恭一郎が再会。事件を振り返る
最初から読む
↓よろしかったら拍手お願いします^^ コメントも大歓迎~
コメント
コメント一覧 (6件)
すばらしいですね。ここまで読下すことができる人がいるとは思っていませんでした。
書き始めの時は、薬袋以外の重要な証拠のあてはありませんでした。進めていくうちに思いついてよかったです。
小説の穴を埋めるような考察&加賀視点からの再構成、素晴らしかったです! 確かにこう考えると色々と納得できますね。
ありがとうございます。納得してもらえるのが一番うれしいです。
ありがとうございます。完成度の高さが本当の小説の続きを読んでいる錯覚に陥りました。正直原作のみですと消化不良感が否めませんでしたがスッキリしました。
めちゃくちゃうれしい感想ありがとうございます。
消化不良感わかります。私もそうでした。
スッキリしてよかったです。