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①「どちらかが彼女を殺した」のつづき 加賀恭一郎編【ネタバレ】

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目次

①(はじまり)「どちらかが彼女を殺した」加賀恭一郎編

 

12月?日(第1月曜日)

東京練馬区。6時を少し過ぎた頃、渋滞の中をサイレンを鳴らしながらパトカーが連なり走っていた。パトカーには練馬警察署の刑事たちが乗っていた。
その列は目白通りから少し入ったところで止まった。薄いベージュ色のタイルで飾られた、4階建てのマンションの前。パトカーの列は、そのマンションで何かが起こったことを告げていた。
パトカーのドアが勢いよく開き刑事たちが降りてきた。彼らは一度マンションを見上げると、すぐ2階に向かった。段取りは全て決まっているのだろう、全員が自分の仕事を無駄なくこなしているように見えた。しかしその中で、1人の長身の刑事だけはすぐに2階へ向かわず足を止めていた。長身の刑事は集合郵便受けを確認していた。

刑事は郵便受けに何か入っていることは確認できたが、暗証番号(p120)が分からなかったのかそのままにして、他の刑事の後を追うように、階段を上がった。玄関先で、係長の山辺ともう一人の刑事が通報者、和泉康正の事情聴取をしているのが確認できた。目的の部屋に着くとドアを開けた。奥の部屋を調べている刑事が声を掛けてきた。
「加賀さんは、ダイニングを調べてください」
「はい」
長身の刑事は返事をした。彼は練馬署の巡査部長、加賀恭一郎。もう一人の刑事と室内を調べることになっていた。加賀は、自殺という情報を得ていたが、自分の感覚で改めて事実を得るのが彼のこだわりだった。この現場の今の時点での確実な情報は、この部屋の住人女性、和泉園子の死体が部屋の中にあるということだけ。


加賀はドアノブの状態を確かめながらドアを閉めた。ドアにはドアチェーンが付いていたが、切断され、今は目的を果たすことが出来ない状態になっていた。切り口を見るとついさっき切断されたと思えるほど、キレイな状態だった。ドアの郵便受には何も入っていなかった。玄関には園子のものと思えるパンプスとサンダルが並べて置いてあった。
加賀は玄関から中に入り、洗面所へ行き、浴室のドアを開けた。浴室の壁や床は乾燥しており、最後の入浴から時間が経っていることを示していた。タオル掛けにはブルーのタオルが掛けられ、壁にはシャワーキャップが掛けられていた。浴槽には(p124)蓋がしてあった。蓋を開けると、薄いブルーに染まった水が半分くらい残っていた。水面には髪の毛が確認でき、それは誰かが入浴したことを示していた。

加賀は疑問に感じた。最後に入浴したのが園子であったのなら、なぜ水を残したまま自殺したのか。
浴槽の水を残す理由を考えた。洗濯に使う。入浴剤を確認すると、洗濯にも使えるものだった。他には、改めて翌日に使うためか。どちらも自殺する人間にとっては必要ない。

加賀は何気なくシャワーキャップに手を伸ばした。壁には吸盤式のフックだけが残った。(p124)再びシャワーキャップを戻した。その時加賀は違和感を感じた。すぐにはなぜかわからず、首をひねりながら浴室を後にした。

ダイニングルームに戻った加賀は、ゴミ箱を確認した。中にはワインと国産アップルジュースの瓶が確認できた。同じゴミ箱にコルク栓も捨ててあった。加賀はコルク栓を取り上げると、鼻に近づけた。ワインの匂いがした。ワインの瓶を取り上げると匂いを確認した。同じ匂いだった。

ワインとコルクが同じゴミ箱から見つかったということは、ゴミ回収までの間に飲みきったことを示している。酒の飲み方は人それぞれだ。しかし、一人暮らしでワインを開けるのは珍しい。誰かと一緒に飲んだと考えるのが自然だろう。

誰かと飲んだとすると、グラスを使ったはず、もう一人の刑事が調べている方のテーブルにはワインらしきものが残ったグラスがひとつしか置かれていない。



もうひとつのグラスは?加賀はキッチンに調査の場を移した。確認すると流しがかすかに濡れていた。
「手でも洗いました?」加賀はもう一人の刑事に訊いた。
「そんなことするわけないでしょ。どうかしましたか」
「いや、気にしないでくれ」
加賀の顔色が変わった。加賀は蛇口に指を近づけた。白い手袋の先に水のシミが広がった。園子の死亡日時ははっきりしていないが、最近、それもそう遠くない時間に水を使った人間がいることを示していた。
加賀は排水溝に顔を近づけた。ワインの匂いはしない。ワインを捨てた可能性もあるが、それは確認できなかった。

警察関係者が流しを濡らすはずはない。となれば、通報者の和泉康正が濡らしたと考えるのが自然だろう。

続いて加賀は(p65)ダイニングテーブルに向かって書簡類を調べることにした。
すると、ドアが開き山辺と刑事、通報者の和泉康正が入ってきた。
「何か見つかったか」
山辺が訊いた。
寝室の本棚に向かっている刑事が答えたので、加賀は目の前の書簡類を再び調べ始めた。1枚ずつ丁寧に調べていく。
「手紙類はどうだ。何か見つかったか?」
山辺が訊いてきた。加賀は調べ物に視線を落としたまま、たいしたものはない、という内容を伝えた。

保管されている書類には領収書もあった。加賀はそれらも詳しく調べていった。12月分の領収書がまとめてあった。(p86)住民はかなり几帳面な性格の持ち主であることが伺えた。領収書には買い物をした店名はもちろん、品目も記録されていた。最近では、冷蔵庫に残った牛乳や卵のものがあった。アップルジュースが記載されたものも見つかった。しかし、ゴミ箱から見つけたワインが記載された領収書は見当たらない。ワインなので最近買った物ではない可能性もある。加賀は、改めてゴミ箱からワインの瓶を取り出した。ラベルを確認した。幸い製造日が確認することができた。
加賀は部屋の中を改めて調べた。ノートを見つけると開けては中を確認し、目的のノートを探した。そしてそれは思惑通り見つかった。そのノートは家計簿だった。12月分の領収書からはワインは見つからなかった。それ以前の領収書は家計簿に記録されていた。全部を調べる必要はない。ワインの製造日はそう古くはない。製造日まで調べてみたが、目的のワインの記録は発見できなかった。

ワインは第3者からのプレゼントである可能性が高いことを示していた。

ここまでの調査で加賀は和泉園子は自殺ではないと感じていた。
しかし、ドアチェーンが掛けられていた状況だと、園子は自殺だと判断される可能性は非常に高い。その場合、現場を調査する機会はもう訪れないだろう。康正とも話しはしたかったが、話しはいつでもできる。この違和感のある現場を時間が許す限り、調べることを優先した。

8時半頃、捜査は終了した。



練馬署に戻ると、加賀は他の刑事たちの報告をあらためて確認した。
兄の康正は愛知の豊橋署の交通課の人間だった。彼によると、妹が自殺した理由は、東京で生活していく自信をなくし、友人もいなかった園子は孤独を感じ、自殺した。ということだった。
よくもこの理由で自殺と判断するな、と加賀は思ったが、遺書もなく本当の理由がわからず、アドレス帳には友人らしき連絡先がなかった点から判断すれば、この理由でもおかしな点はないだろう。

加賀は報告書を読んだ。
(205)園子はグラスをペアで持っていた。寝室のテーブルに残っていたワイングラスのもうひとつは食器棚の中にあった。そのグラスは他のグラスに比べて洗い方が雑であり、流し台の水栓のコックからは園子の指紋しか検出されていない(206)とあった。

加賀は園子の部屋から預かった手紙を見た(200)。その中には封筒もあった。封は破られていたが、中身はそのままだった。中身を取り出そうとした時、違和感を感じた。はっきりとは分からないが、気持ちが悪い。他の封筒を手に取り、同じ様に中身をとろうとすると同じ感覚があった。
加賀は封筒を詳しく見た。破った部分を再び閉じようとすると、加賀の持ち方と破れ方が逆になった。近くにあった紙を取り上げると、端を破ってみた。加賀は席を立ち、他の人間に紙を破ってもらった。園子の封筒の破り方と一致した。その人は左利きだった。

加賀は浴室で感じた違和感を思い出していた。シャワーキャップを手に取ったとき感じた違和感。加賀は右利きだった。園子は左利きだったのだ。それは左手で取りやすい位置だった。
利き手が一つのポイントであると、加賀は感じた。



寝室のテーブルに置かれた2つの睡眠薬の袋の報告書を見た。
付いていた指紋は、園子のものだけだった。2つとも同じようについていたとあった(78)。
加賀は情報を整理しようとしたが、園子の部屋の事実が邪魔をした。ドアチェーン。
ドアチェーンという密室状態では外部からの侵入者は考えにくく、唯一の肉親の証言が嘘をついているとも考えにくい。理由はともかく、警察が自殺と判断するのは妥当と思われる。
加賀は現場の写真を確認した。そしてその中から1枚を取り上げた。
「この破壊にはメッセージがある」(p201)
加賀は呟いた。写真にはドアチェーンが写っていた。

ドアチェーンがなかったものとして加賀は康正の行動に仮説をたてた。
(208)園子を殺害したのは康正ではないかということと、園子を殺害した犯人を庇っているのではないかということ、そして一番有力なのが、警察が犯人を見つける前に康正が犯人を見つけようとしているということ。その目的は復讐。

(210)この推理を上司に相談したが、賛同は得られなかった。ドアチェーンについては、思った通り、唯一の肉親である康正が嘘をつくはずはないということだった。今はOL殺人事件で署が忙しく、自殺で処理してもどこからも文句がでないのも賛同を得られない理由のひとつと考えられた。

康正に話を聞く必要がある。加賀は山辺に連絡先を教えてもらうことにした。山辺は何か言いたそうな表情をしたが、加賀の単独行動はいつものことだ。電話番号とホテルの名前、部屋番号が記されたメモを渡してくれた。

加賀は時間を確認すると、警察署を後にした。
車に乗り込み、アクセルを踏んだ。車の流れに乗ったところで電話を掛けた(p75)。程なくホテルの受付の声が受話器から聞こえた。康正を呼び出してもらうよう伝えた。



まもなく加賀は康正とホテルのバーで会った。
(小説文庫版 p76-p93)

加賀が康正に伝えた情報は、加賀の父が昔交通課にいたこと。寝室のテーブルの上にあった2つの睡眠薬の袋に園子の指紋が同じように付いていたこと。

園子が睡眠薬を常用していたか訊いた。康正は園子が神経質であることを強調していた。しかし、加賀は「旅行」の言葉に疑問を持った。東京で孤独を理由に自殺した人間が旅行するのか?
睡眠薬を処方した名古屋の病院名と医師の名前を聞くことができた。

自殺方法について訊いた。園子の高校卒業間際に同級生が取った方法ということだった。

タイマーについて訊いた。康正は電気毛布用のものではないかと答えた。加賀は、ベッドには電気毛布が敷かれていたが、そのコードは加工されタイマーに繋がっていたので、園子は最後の夜、冷たい布団で迎えたことを伝えた。
「睡眠薬を飲んだから、寒くても眠れると思ったんでしょう」
康正は理由を口にした。加賀は確信した。康正は何かを隠している。ここで康正が理由を考える必要は全くない。むしろ、どうしてだろうと疑問を持つ方が普通だろう。園子が自殺したということを俺に納得させようとしている。
「今のところ、そう考えるのが妥当のようですね」
加賀は表情を変えず、含みを持った答えをした。視線は手帳に落としていた。(p83)

アルコールについて訊いた。康正は園子がアルコールは強くなかったがワイン好きだったと答えた。宵越しのワインも当たり前とのことだった。加賀はあの部屋に残されたワインを一人で飲んだということを強調していると感じた。

加賀は康正が何かを隠していることを確信していたが、簡単にはそれを話さないことも理解していた。
アルコールの話題になったので続けて、加賀は康正が気が付いていないであろう事実を話して様子を伺うことにした。ワインの領収書が見つからないことを話した。康正は少し動揺したように見えた。第三者の存在を否定しようとしていた。

加賀は話題を変えることにした。署で報告から分かっていたが、改めて康正に金曜の夜に園子と電話で話したことを訊いた。途中質問を挟んだが曖昧な回答で康正はかわしていった。
加賀は最後に、流し台が濡れていたことを伝えた(89)。康正は即答せず、もったいぶった感じで答えていった。加賀がどれだけ疑いをもっているのかを確かめるように。加賀は康正の答えに納得した振りをした。

加賀は手帳を閉じ、礼を言った。

(p91)二人でエレベーターに乗った。康正が先に降りた。歩き始めたのを確認すると、加賀は扉に手を伸ばし閉まらないようにすると声を掛けた。康正が刑事の追求から開放されホッとし、油断した瞬間を狙った。加賀の言葉に康正は動揺した。康正が最初に部屋に入ったとき、ドアチェーンは掛けられていなかった可能性が高いとずっと考えていた加賀だったが、それを口にはしなかった。

エレベーターの扉が閉まり、再び動き出した。加賀は康正との会話を思い出していた。康正は冷静な思考の持ち主だった。園子の自殺に疑問を持たないのはおかしい。こちらの質問には、自殺であることを納得させようと促していた感がある。俺の知らないことを彼は知っている。(206)水道のコックに指紋が検出されていないことを黙っておいた。何を隠しているのかだいたい想像はついたが。加賀は納得がいく園子の死の原因を探ることにした。


② につづく

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