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⑥「どちらかが彼女を殺した」のつづき 加賀恭一郎編【ネタバレ】

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目次

⑥「どちらかが彼女を殺した」加賀恭一郎編

12月?日(日曜日)

康正と加賀は練馬署にいた。
「犯人がわかったのは君のおかげだ」康正は頭を下げた。
「あなた自身で見つけられたのです」加賀は何ともいえない笑みを浮かべ答えた。
「利き手の話をしていたときの、『破壊には必ずメッセージがある』という言葉を思い出してわかったよ。弓場が捨てた薬袋がカギであるということを」
加賀は満足そうに頷き、康正に訊いた。
「弓場の利き手はどちらでしたか?」
「左利きの手つきで開けていたよ」
康正は慣れない手つきで破る真似をした。
「そうですか。想像通りでした」加賀も同じ手つきをしながらいった。

「君は知っていたのか?」康正は訊いた。
「ええ、だろうとは思っていました。弓場が出演していたビデオで確認していましたから」
「そうか」康正は頷いた。「それはそうと、君は佃の利き手も知っていたのか?」
「ええ」
「いつの間に」康正は驚いた。「君が今日、佃を見たときにはすでに手足を縛られ、身動きできない状態だったはずだ」
「私が佃に会ったのは今日だけではありません」
「以前から佃に目をつけていたのか」康正は驚いた表情をしながらいった。
「いいえ、以前というほど前ではありません」加賀は首を振りながら答えた。「名前は以前から知っていましたが、会ったのは…、正確にいえば、見かけたのは、昨日が初めてです。利き手を判断するには、昨日だけで十分でした。弓場のマンションを出てから、佃のマンションに戻るまで、電車に乗る際、切符を買うために財布を取り出し、小銭をつまみ、ボタンを押し、切符を取る。その動作だけでも利き手を想像できます。他の動作からも情報はたくさん与えられました」
「なるほどなぁ」康正は感心した。「ところで、重要な証拠になった2つの睡眠薬の袋なんだが、あれにはどう園子の指紋が残ってたんだ。君は確か、同じようについていた(78)といっていたが、右利きの指紋がついていたんだろう」
「いいえ」加賀は笑みを浮かべていた。
「どういうことだ」康正は少し声を荒げた。しかし、警察署であることを思い出し、すぐ冷静になった。「俺はてっきり右利きの指紋が残っていると思っていたが」
「そうとれるようにいったかも知れませんね」
「あのいい方は、犯人によって開けられたものとしか考えられなかったぞ」康正は強い口調でいった。
「よかったです。あなたにそう思ってもらうのがこちらの狙いでしたから」加賀は笑みを浮かべた。
「右利きでなかったなら、じゃあ、左利きか」康正は苛立ちを浮かべながらいった。
「わかりません」加賀の答えに康正の苛立ちはおさまらない。「どちらからかわからないように指紋がついていました。どう開けたのかはわからないのです。薬袋からわかることは園子さんの手に触れたことがあるということだけです。ゴミ箱からは数日分の睡眠薬の袋も見つかっています。最近、精神的に不安定だったみたいですから、飲んでいたとしても不思議ではありません。もちろん、指紋は付いていましたが、付き方は様々でした。持つとき、切り離すとき、破るとき、飲むとき、捨てるとき、いろいろなパターンで指紋が付く可能性があります」
「そうかもな」康正の苛立ちは消えていた。
「2つの睡眠薬の袋については、いつの時点に開封されたのか分からないのです。佃に確認すれば分かるかも知れませんが、今の時点では不明です。犯人ではない人物が空けていたとしても、まったく不思議はない状況です。そういった不確かな証拠から犯人を絞り込むことはしません」
「園子が自分で飲んだ可能性もあると」
「充分あり得ることだと思います」
「妹が自分で飲んだ物であってほしいな」康正はつぶやいた。
「そうだと思いますよ」加賀は大きく頷いていた。康正も頷いた。



少しの沈黙の後、再び加賀が口を開いた。
「和泉さんは睡眠薬の袋を証拠と考えたみたいですが、犯人が睡眠薬の袋を置く意味を考えてみてください」
「自殺と見せかけるためかな」
「そうです。自殺に見せかけるためです。しかし、犯人は自殺に偽装したかったのでしょうか?」
「自殺に偽装したのは俺だ」康正が思い出したようにいうと驚いた表情を加賀に向けた、加賀は頷いた。
「犯人にとって、自殺に偽装することは無意味でした。睡眠薬の袋はあってもなくてもいい存在です。最終的に犯人は他殺にしたかったのです」
「他殺にして、犯人は自首したかったってことか」
「違います」加賀は首を左右に振った。「犯人は恋人に罪をなすりつけようとしたのです」
「そういうことか」康正は唸った。
「和泉さんが現場を操作しなかった場合、佃と弓場に疑いがすぐ掛けられたでしょう。真犯人は恋人を犯人に仕立て上げる罠をいくつも張ったのです」
「真犯人の計画を俺が潰したんだな」康正はつぶやいた。
「ある意味警察が誤認逮捕することを防いだことになります」
「そういってくれると、助かるよ」お互い顔を見合わせた。
「もともと、現場は複雑な状態だったのです。単純に犯人を追える状態ではなかった。それに気付ける人は」加賀は言葉を止めた。
「すごく優秀な人間だ」康正は加賀に笑顔を向けいった。加賀は照れた表情をした。「犯人が複雑にした現場を、さらに俺が複雑にした。それを君は解決した。すごい人だ。加賀さんは」

康正は手を差し出した。加賀はその手を握り返した。康正は精一杯感謝を伝えた。



⑦(完) につづく

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 真犯人が自殺に見せないための偽装を行った謎がクリアに説明できる解釈だと思います。

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