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「私が彼を殺した」解決の章 パターンK
「犯人はあなたです」
全員の視線が加賀の指先に集中した。ゆっくりと動いた指先がある人物を差して静止した。差された人物は大きく目を見開き、瞬きするのも忘れているようだった。
「やっぱり」
「そうだったのか」
指を差されなかった二人が犯人を見ていった。
神林美和子は涙を流し、声にならない嗚咽をもらし床に崩れた。
「僕? ・・・ですか?」
神林貴弘は呟いた。反論する様子は見られなかった。
「教えてくれ。こいつはいつカプセルをすり替えたんだ」
駿河が加賀に迫った。雪笹も頷いている。美和子も泣き止み加賀の言葉を待った。
加賀は美和子を確認すると話し始めた。
「これまでのお話しをお聞きして、結婚式の当日、カプセルを交換することは、穂高さん、美和子さん、を除き不可能であったと考えます」
全員の顔が驚きをあらわしていた。
「先程までの議論で、結婚式当日の皆さんの行動がはっきりと把握できました。当然、神林さん、美和子さんのおっしゃるとおりとすれば、彼にもすり替えるチャンスはありませんでした。しかし、神林さんがカプセルを手に入れたのは前日の午前中です。」
「そうか。俺が脅迫状と一緒に渡したカプセルを使ったんじゃないとすれば、こいつには土曜日にもチャンスがあったのか」駿河が興奮して言った。
「では、神林さんの土曜日の行動を思い出しましょう」加賀はポケットから手帳を取り出した。「みなさんと別れて、美和子さんと行動をしたところから確認します。ホテルのチェックインを済ませ、美和子さんは美容室へ行きました。その間、神林さんは時間をつぶすため、本屋に行きマイクル・クライトンの「ディスクロージャー」の上下巻を購入しました。それからコンビニに寄り、アーリータイムズのハーフボトルとチーズ入りかまぼこ、ポテトチップスを購入し、ホテルへ帰るわけですが、その途中で猫に出会います。浪岡準子さんのカプセルをチーズかまぼこに仕込み実験をしました。結果を見届け、ホテルに戻ります。ティーラウンジで美和子さんと合流し、その後、日本料理店で夕食を済ませ、それぞれの部屋に戻り、就寝」
加賀は一気に話した。
「それだけでは、いつカプセルを仕込んだのかわからないわ。かわいそうな猫がいたのはわかるけど」
真剣に加賀の話を聞いていた雪笹は訊いた。
「そうですね」加賀は大きく頷いた。「では、もう一度これらの写真を見ていただきましょう」
写真には、美和子のバッグ、薬瓶、ピルケースが写っている。加賀はその中から1枚を取り上げた。
「この写真に写っているものが重要な証拠品です」
全員が写真を見つめた。
「薬瓶・・・」
誰かが呟いた。
「この薬瓶についていた。指紋」手を下ろし加賀は話し始めた。「先程、私は一人だけ、その指紋の持ち主ではないかといいましたが、正確にはその時間、その場所にいた人物は一人だったということです。それで指紋の候補者は一人に絞られました」
「よくわからないわ」雪笹が訊いた。
「申し訳ありません。説明不足で」加賀は雪笹に頭を下げた。「先日、私は神林さんのお宅にお邪魔しました。その時、神林さんと美和子さんから5月17日土曜日の行動を詳しく教えてもらいました。それを元に私は違う週の同じ土曜日、同じ時刻に、神林さんと同じ行動をしました。本屋に寄り、コンビニにより、ホテルに行き、ティーラウンジにより、日本料理店へ行きました。当然ですが、神林さんと美和子さんについて覚えている人物がいないか聞いてまわりました。その中で、よく神林さんのことを覚えている人物がいました」
「誰なの?」雪笹が興味深そうに訊いた。
「日本料理店の仲居さんです。大きな日本料理店なのですが、そこのお店では、テーブルごとに対応する仲居さんが決まっていました。その仲居さんは週末だけ働いている人で、ほぼ同じテーブルを毎回対応しているということでした。そのため、私は指紋の持ち主ではないかと思われる人物が一人だけ、と言ってしまいました」
「まあ、一人でも二人でも何人でもいいわ。とにかくその人の指紋が付いていた。ってことなのね」雪笹は訊いた。
「そうです。その仲居さんの話によると、美和子さんが席を立ち、お手洗いに行くのを見て、空いた食器類を下げるためテーブルに行ったそうです。食器類は大きなお盆に載せられているので、そのまま厨房に運んだのですが、その際、お盆に薬瓶が載っているのに気が付いたそうです。彼女はそれを手に取り神林さんに返した、と言っていました」
「なるほど、美和ちゃんがお手洗いに行っている間に、薬瓶を手にしたお兄さんはその時カプセルを交換したんだ」
雪笹は貴弘を見ながらいった。
「神林さんと美和子さん、そして仲居さんの証言が正しいとして、間違いないと思います」
加賀の言葉には自信があった。
「そうか」雪笹がつぶやくように言葉を続けた。「控え室で美和ちゃんが薬瓶から取り出したものが、毒入りカプセルだった。・・・あの日の穂高の死は偶然だったのね」
美和子の人形のような顔が、より生気を失った。
「神林さん。署に一緒に来ていただけますね」
加賀は優しく手を差し出した。
神林兄妹は泣き崩れた。
パターンK(あとがき)
神林貴弘を犯人にしようと考えました。
袋綴じ解説は無視しています。
カプセルを交換する機会と、証拠品についてはすぐに思いつきましたが、指紋で悩みました。
指紋については、”付いてて当たり前”と”犯人のみが知る”という条件があります。
仲居さんの指紋がついてて当たり前というのは不自然なので、指紋が付いている可能性があることを加賀は事前の”聞き込み”で知っていることにしました。犯人のみが知るということに関しては、貴弘だけが仲居さんが薬瓶を手に取ったこと知っていることになるので、いいかな。
ちなみに日本料理店の仲居さんは、小説にもちゃんと登場しています。
パターンはまだまだ続きます。お楽しみに♪
「私が彼を殺した」のつづき パターン別
他のパターンです。
真犯人は
・駿河直之(袋とじ回答)
・神林貴弘
・雪笹香織
「私が彼を殺した」分析する 推理する
・分析する(疑問点、カプセルの行方)
・推理する(袋とじ解説から推理します)
「私が彼を殺した」(講談社文庫)
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