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③「どちらかが彼女を殺した」のつづき【ネタバレ】現場

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目次

③現場

康正は当時の辛かった時を思い出した。
「俺は最初に園子の部屋に入った時、園子は本当に自殺したのだと思った。しかし、現場には様々な不振な点が残されていることに気づき、園子が殺されたことを知った。そしてすぐに、犯人を見つけ出そうと決心した。園子がどうして殺されたのか、については全く考えなかった。園子にあんな一面があったなんて」
「仕方がないと思います。自分の身内のことを悪く考える人間はいません」加賀は続けた。
「しかし、園子さんを発見したのがあなたではなく他の人間で、警察が先に現場に入っていたら、警察は間違いなく他殺と判断し、犯人を特定したでしょう。結果、あなたは犯人と直接対話する機会を得ることは難しくなったかもしれません」
「そうだな。俺は犯人と話すことはできなかっただろう。犯人を自分で確かめるため、園子が自殺したように犯人に協力したんだ」
康正は自分がとった行動を思い出しながらいった。
「しかし、妙だとは思いませんか。犯人はなぜ、他殺とわかるような中途半端な状態で現場を後にしたのでしょう」
「慌てたから、かな?」
「どうして」加賀は真剣な顔つきになった。「どうして慌てる必要があるのですか?それより時間が掛かっても、自殺という状況を作り上げた方が、後々自分に疑いが掛かる可能性が少なくなるんですよ」
「すると、君は犯人が故意にあの状況を作ったと考えるのかい」
「考えます」
加賀はビールをひとくち口に含み、ごくりと飲み込んだ。康正も唾を飲み込んだ。

「まだ俺の知らないことがあるのかい」康正は訊いた。
「あくまでも私の推理です。それでもよろしいですか」
「聞かせてくれ」二人は顔を近づけた。

「まずは、犯人がどういった状況を作りたかったのか考えてみましょう」

「ひとつは、犯人にとって、相手には園子さんは自殺したのだと思わせる状況。土曜日に一緒に確認していますからね。その時二人がとった行動は、園子さんの自殺の確認と、照明のスイッチを切ったことでした。犯人の思惑通り、相手は園子さんの自殺を疑わなかったみたいです」

「もう一つの状況は、警察が発見したときの状況。犯人は警察には他殺であるとメッセージをたくさん残しました。あれだけ手間が掛かる自殺を演出しながら、うっかり片付け忘れたでは済まされません」
「俺がそれを回収したんだな」康正は必死になって行動したことを思い出した。
「そうです」加賀は続けた「犯人は死体発見の新聞の記事を見た時、驚いたと思います。あれだけたくさんの他殺の状況を残したのに、どうして警察は自殺と判断したのだ、と」
「犯人が故意に他殺の状況を残すとして、その理由は」康正は少し考えたがすぐにわかった「そうか!相手を犯人にすること」
「その通りだと考えます」加賀は大きく頷いた。「警察には、その情報をそれとなく伝わるように残す。それが犯人が作り上げた状況でした」
康正は驚きを隠せなかった。そんなこと全く考えていなかった。

————————-
「つづいて、弓場が来るまでに園子さんの部屋で起こったことを思い出してみましょう」

園子さんはお風呂から上がり、康正さんに電話を掛けて、10:30電話を終えます。その後すぐ、佃が訪問。12月、佃は手袋をはめていたと考えられます。ワインを園子さんに渡し、ワイン通の園子さんはご自身でオープナーを使ってコルクを抜き、佃と自分のグラスにワインを注ぎます。ワインボトルには園子さんの指紋しか付きません。そのうち園子さんはトイレか、何か用事があって席を立ちます。佃はそのすきに睡眠薬をグラスに注ぎます。そして、何も知らない園子さんはそれを飲んでしまいます。そのうち、薬が効いてきて園子さんはベッドにもたれかかる格好で座ったまま寝てしまいました。

佃は手袋をはめ作業に取り掛かります。11:00佐藤さんにピザを持ってきて欲しいと電話でお願いします。使ったコードレス電話は床に転がりました。包丁でコードを切断し、皮をめくり、園子さんの体に貼り付けます。睡眠薬の袋をテーブルに置き、自分が使ったグラスを流しへ持っていきます。

佃は寝室に戻ったとき、壁際に落ちた丸まった紙を発見します。紙を広げ内容を見て、他にないか屑籠の中身をちらかしながら、もう1枚見つけます。
そして、手紙を読みます。その時、玄関が開き、弓場が園子さんを殺害しようと部屋の中に入ってきました。

「多少の前後はあるかも知れませんが、だいたいこういった状況であったと思います。その後は」

自分が殺人を犯そうとしたと思われたくない佃は、手紙を弓場に渡し、殺害をとどまり片付けの最中だと伝え、園子さんからコードを外し屑籠へ捨てます。弓場に手紙を読んで殺害を諦めたと伝えます。佃はカレンダーに園子のバッグから取り出した鉛筆で謝罪の言葉を書き、部屋の後片付けを弓場に任せて、佃は自分の家に帰ります。

————————-

「ここまでは、佃と弓場の二人が知る行動なので、園子さんが発見されてから相手に証言される可能性があります。なので嘘はほぼないと考えていいでしょう」
康正は同意して頷いた。

④につづく

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