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解決の章 パターンS【私が彼を殺した】真犯人は駿河直之





目次

「私が彼を殺した」解決の章 パターンS

「犯人はあなたです」
全員の視線が加賀の指先に集中した。ゆっくりと動いた指先はある人物を差して静止した。差された人物は大きく目を見開き、瞬きするのも忘れているようだった。
「やっぱり」
「そうだったのか」
指を差されなかった二人が犯人を見ていった。
犯人は腰掛けた姿勢を保っていられないのか、今にもソファからずり落ちそうになっていた。
「犯人のあなたにしか意味が理解できない物」加賀は手を伸ばし、写真を取り上げた「それは、これです」
写真にはピルケースが写っていた。犯人は床に座り込み小さくなった。
「身元不明の指紋。それは穂高さんの前の奥さんの指紋でした」加賀は犯人を見ていった。
全員が犯人を見詰めた。視線の先にいたのは、駿河だった。


「駿河さん。あなたはピルケースを交換したのですね。毒入りカプセルが入ったピルケースをあらかじめ用意して」
駿河はうずくまったまま何も答えなかった。
「なるほど、ピルケースを交換したのね。直接カプセルを交換しなくてもよかったわけだ」
雪笹は頷きながら、納得していた。
「それにしてもピルケースについてた指紋が証拠であったのなら」雪笹は加賀を見ながらいった。「警察は早い段階で誰が犯人ってわかってたんじゃないの?ピルケースに付いていた指紋は前の奥さん以外、どうだったの?」
「指紋は穂高さん、駿河さん、ホテルのボーイ、穂高さんの前妻、4人のもの以外付いていませんでした」
「4人だけ。駿河が交換してないなら、あたしや西口の指紋が当然あるはずよね」
「あるはずの指紋がなかった。そこから警察も容疑者を絞ることは可能です」
「ならどうして?あたし達の指紋がなかったのでしょ」
雪笹の語気が強くなったが、加賀は冷静なままだった。



「それはこちらを見てください」加賀はポケットから新たな写真を取りだしテーブルに置いた。「ホテルからお借りしてきた写真です。控え室で撮影されたものです」
雪笹は写真を手に取り、じっくりとその写真を見詰めた。
「あっ、そうか思い出した」雪笹は自分の頭を軽く小突いていった。
写真には美和子を中心にして脇に雪笹と西口が写っていた。全員が笑みを浮かべていた。そして、全員の手にはグローブがはめられていた。
加賀は写真を取り上げると、再びポケットにしまった。
「この控え室で撮影された写真のために、私達警察はピルケースの指紋だけでは犯人を絞ることができなかったのです。ピルケースに素手で触れた人物は指紋の残っていた3人(穂高、駿河、ボーイ)と誰がつけたのかわからない指紋がひとつ。この指紋にしても偶然誰かが手に取ったと考えれば、おかしな点はまったく見当たりませんでした」



「警察はピルケースを証拠と考えていなかったのよね。でも、加賀さんは違った」雪笹は訊いた。
「はい」加賀は頷いた。「私は以前、駿河さんの部屋にお邪魔する機会がありました。部屋の中にはたくさんのダンボールが積み上げてあり、その中には宅急便の送付票が貼り付けてある物もありました。確認すると受け取り欄には穂高さんの名前があり、送り主は女性でした。なぜ、穂高さん宛ての荷物が駿河さんの部屋にあるのか考えましたが、答えは簡単です。苗字はすでに穂高ではありませんでしたが、送り主は穂高さんの前妻であり、美和子さんとの結婚にあたり、穂高さんが荷物を駿河さんに預けたと考えればいいのです」
加賀は駿河を見たが、駿河は何の反応も見せなかった。
「そのダンボールの中にある品々には当然、奥さんの指紋があったでしょう」加賀は写真を取り上げた「そして、このピルケースはその中にあったひとつと考えられます。ピルケースというものは、仲のいい夫婦でも共有するとは考えにくい。薬を間違えて服用する可能性がありますから。とにかく、穂高さんが最後に手にしたピルケースは前妻のものであったことは確かです。前妻のピルケースを何の疑いもなく手にしたということは、穂高さんと前妻がそれぞれ同じピルケースを所有していたのではないかという想像が成り立ちます」
加賀はピルケースの写真をテーブルに置き、そして、全員の顔を見渡した。



「先程までのみなさんの話の中で、駿河さんを含め、神林さん、雪笹さんにはカプセルを交換することは不可能であったことが判明しています。しかし、そのことがこの前妻の指紋がついたピルケースの持つ意味を確定させました。これこそが犯人が残したジグソーパズルの最後のピースであると、このピルケースが示すことは、カプセルのみを直接交換することは不可能であったが、ピルケースごと交換することが、可能であったということです」
加賀は駿河を見て、再びピルケースの写った写真を手に取り全員に見せながら話した。
「駿河さんはこのピルケースの中にあらかじめ毒入りカプセルを仕込み、それを携帯していた。カプセルのみを交換できることが最善でしたが、みなさんのお話しからもわかるように、それは不可能でした。しかし、カプセルをピルケース毎交換する機会はあった。思い出してください。駿河さんが結婚式当日、ピルケースを手にしたときのことを。雪笹さん」
加賀は雪笹を見ていった。雪笹は思い出すように額に手をやった。



「駿河は、西口からピルケースを受け取ったわ。それから近くを通ったボーイにピルケースを渡した」
そこまで言うと雪笹は考え込んだ。
「あっ」雪笹は思い出したという表情をして声を上げた。「そういえば、駿河は西口からピルケースを受け取った後、ピルケースの中身を確認して、それからポケットに入れた。ボーイに渡したのはそれからだわ」
「ありがとうございます。雪笹さん」加賀は雪笹に向かって頭をさげた。「これでこの事件のジクソーパズルの最後のピースが、確実に形もぴったり合うことが判明しました」
加賀は雪笹から駿河の方に大きな体を向け、姿勢を正した。
「駿河さん。あなたは西口さんから受け取ったピルケースを受け取り、それをポケットの中で交換しましたね」
小さくうずくまった駿河に、加賀は大きな手を差し出した。

「署までご同行願います」



パターンS(あとがき)

袋綴じ解説にあるのは、
・ピルケースは2つ
・もう1つのピルケースの行方は
・ピルケースごとすりかえるチャンス
以上を元に推理すれば犯人は”駿河”になります。

改めて小説を読むと、
加賀さんは、
駿河がピルケースを一旦ポケットに入れたという情報は得ていない。
ピルケースが2つあることも、想像。穂高の前妻のピルケースが駿河の部屋にあったことも、想像。

想像だらけ、
実際はもっと決定的な証拠があり、加賀さんは犯人を突き止めたのではないかと考えます。




読者は、
駿河がポケットに一旦入れたことを知っている。
ピルケースが2つあったことを知っている。
穂高の前妻のピルケースが駿河の部屋にあったことは、想像。

読者の方が、加賀さんより情報が多い感じ。

なので、読者が知らないところで、加賀さんが得た情報があると考えます。

ピルケースに付いていた身元不明の指紋の持ち主が、穂高誠の前妻ではないかと考えた加賀は、彼女に会った。ピルケースの写真を見せ彼女に訊く。
「こちらに見覚えはありませんか?」
彼女は写真を取り上げた。
「あたしが以前使っていたピルケースみたいね」
「これは、あなただけが使っておられたのですか?」
「そうよ。穂高も同じ物を使ってたけど、それぞれ自分の物を使ってたわ」
「今は、お使いでは?」
「使ってないわよ」
「どうされたのですか?」
「再婚する時、他の荷物と一緒に穂高宛に送り返したわよ。穂高の家にあるんじゃないの?」
「ありがとうございました」
加賀は丁寧に写真を取り上げハンカチに包んでポケットにしまった。
後日、前妻の指紋がピルケースのモノと一致。

こんな感じのやりとりがあったのではないでしょうか。
これで、加賀さんにはピルケースが2つ存在することと、駿河の部屋にピルケースがあったことが確定的になります。
でも、指紋が判明した時点で駿河が犯人となりそうな感じもします。
小説の最後のやりとりは、神林貴弘と雪笹香織が犯人ではないことを改めて確認するためだったのでしょう。



「私が彼を殺した」のつづき パターン別

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「私が彼を殺した」(講談社文庫)

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コメント

コメント一覧 (4件)

  • NoTitle
    私が彼を殺した 
    (講談社NOVELS) ほかの判もあるそうですが私はこれしか読んでません。

    この作品も最後まで加賀の推理は書かれずじまいで誰が犯人なのか読者が考えなければならいようになっている。で、例により私の推理を以下開陳。

    実は脅迫状を書いたのは穂高だった。いや書かせたのは穂高だった。彼は妻とその兄のスキャンダルを自分の宣伝に使おうと企んでおり、確たる証拠が欲しかった。で、あの脅迫状を駿河に書かせた。同封したカプセルはただの鼻炎薬だが、見てそれと分かるように細工がしてあった。恐らくカプセルの中身が少し減らしてあったのだろう。穂高は前日「薬がもう、切れたようだ。」と言って飲んで時間が経ってないのに一個もらっている。脅迫状に入れたのはこのときの実は飲んでいないカプセルだ。駿河はしかしカプセルをストリキニーネのものに摩り替えて脅迫状に仕込んだ。更に一方では「こんな、馬鹿げたことはやめよう。」と言ってストリキニーネ入りのに摩り替えてそれを穂高にかえした。そう、駿河は夜中に浪岡準子の部屋に毒入りカプセルを取りに戻っていたのだ。結果的に穂高に返したほうがヒットした。
    が、ここで問題が生じる。そうするとカプセルが一つ余ってしまうのだ。穂高の手元に駿河から帰ってきたカプセルと美和子から回ってきた分と二つのカプセルが残ってしまう。駿河には片方を回収するチャンスがなかった。なのにカプセルは余らなかった。なぜか?誰かが飲んでしまったのだ。あの日、ホテルの客に鼻炎の人がいたのだ。穂高はその人(たぶん美女)に気前よくピルケースを差し出したのだ。加賀はその可能性に気がついてボーイとかに当たってその人物を突き止めた。
    一方、神林貴弘の持っていたもう一つのカプセルはどうなったか?それは妹に与えた。「あいつは悪いやつだ。いつか殺さなければならない時が来る。」と無理やり押し付けた。美和子はそれをゴミ箱に捨ててしまった。それを言っても信じてもらえず刑事に美和子が犯人だと思われてしまうので美和子はは黙っていたのだ。また貴弘は美和子が犯人だと思っているのでやはり黙っていた。でも加賀はちゃっかりホテルのゴミ箱からカプセルを回収していた。それには貴弘と美和子の指紋がついていた。

    この作品のミソは実は加賀が握っている情報が書かれていない。って部分にあるのだと思う。私はそれを活用して犯人を推理してみた。

    ピルケースには前妻とおそろいのものがもう一個あるので、駿河がボーイに渡す際、毒入りのピルケースと摩り替えた。・・・って推理を最初にしたが簡単すぎてダサいので捨てた。むしろ、そう考えたのは雪笹としたい。そうすると「私が彼を殺した。」とつぶやいたのも頷ける。

    と、こんな感じなのだが、いかがだろうか?

    • コメントありがとうございます。

      脅迫状を穂高が駿河に書かせたというのはいいですね。
      でも、脅迫状がばれた時点で、駿河は穂高に書かされたということを告白してもおかしくない感じもします。もっとややこしくなるけど。

      貴弘が美和子に穂高は悪い奴だと説得できるとは考えにくいです。結婚前の貴弘にとっての穂高は、妹を自分から奪ったいやな奴で、それも単に貴弘の自分勝手な感情なだけ。
      浪岡準子の様子を見て浮気相手だと思ったとしても、妹に「いつか殺せ」と説得できるのでしょうか。多分、妹を殺人犯にはしたくないと考え、貴弘が実行すると思います。

      結婚式前日にカプセルを続けて2錠飲んだ理由が、1錠目を所持するためというのは面白いですね。穂高自身が何か仕組んでいるという。

      楽しい推理ありがとうございました。

      加賀さんが掴んだ情報が書かれていないおかげで、いろいろ想像できますね。

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