この記事は秋吉理香子さん著 暗黒女子のつづきを書いています。
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⑥(終) わたしの独白 その3
小百合への復讐は簡単でした。
「定例闇鍋朗読会」の録音データから小百合が話した部分だけを取り出し、それを文学サークルの馬鹿共に、使い捨てアドレスを使用したメールに添付して送ってやりました。
精神的に弱った小百合は不登校になり、やがて退学しました。
小百合がいなくなり、文学サークルのメンバーは再び自分の居場所に戻っていきました。
しかし、そんな姿が気に食わない。
いつみに弱みを握られていたとはいえ、いつみを追い込もうとしていたのにはかわりません。
メンバー達にも報復する事を考えました。
その前に、今の私がこんな状態になった原因を作ったアイツを葬らないと気が済みません。
ある日から。テレビのワイドショー、報道番組、新聞などマスメディアが白石グループのスキャンダルで連日埋め尽くされるようになりました。
私はそれらの情報を満足しながら眺めました。
スキャンダルを各マスコミに垂れ込んだのは私です。
白石はいつみの告白通り、政治家、官僚、大手企業の重役など、日本の重要人物の弱みをたくさん握っていました。クラックしたパソコンからは、あふれるように情報が手に入りました。
当然、白石は引退し、グループは解散、吸収に追い込まれました。
白石は社会的に抹殺されました。家族は離散し、その後の消息も不明です。
今はもう「聖母女子学院」はありません。当然、文学サークルもなくなりました。
小谷美礼は、居場所がなくなり、家族揃ってどこかへ引っ越したらしい。
ディアナ・デチェヴァは、家族から勘当され、どこかへ消えた。
古賀園子は、医者の夢が破れ、引きこもりネットを徘徊しているらしい。
小南あかねは、家族とともに消えた。
高岡志夜は、多額の賠償金を請求され、どこかへ消えた。
澄川小百合は、殺人を問われ勾留された。
マスコミに提供した「第61回 定例闇鍋朗読会」の全ての記録は更に世間を騒がせました。
この記録に私のことをいっているものが、誰もないのが不思議な気がしてなりません。
所詮、自分たちの世界でしか生きていない彼女たち。自分をおとしめているのは、自分のことが嫌いなあいつという、発想しかできないのかも知れません。
ちょっと考えれば、私も彼女たちの事情を知っている可能性があることと気づいただろうに。
人々が正しい道を歩むべく規範となるよう、きっと私のことを神が導いてくれているのだろう。と思います。
私を追い込んだ者たちに、全て制裁が下りました。
私はかれらの罪を暴いただけ。罪を犯したのはかれらなのです。
これからも私は神の導きの通り、全てを受け入れながら進んでいくことを誓います。
(了)
(下に続きます)
北条は郊外にあるいつみの墓参りに訪れた。
その日は、一年前あの「定例闇鍋朗読会」が執り行われた日だった。
いつみの死は、5人の罪がマスコミに騒がれるまで隠されたままとなり、白石家の人々もいつみの死をそこでようやく知ることとなった。
最近建てられたお墓は真新しく、日差しを受け眩しかった。
太陽を見るように、額に手をかざしながらお墓を見る北条。
すずらんの花を供え、最近の出来事を語り、お墓を後にした。
北条はすずらんを一輪だけ持ち帰った。それは大切に手に握られていた。この世に誕生することができなかったいつみとの子の代わりであるかのように。
人通りも民家も少ない道を歩くと、ブルガリアでのことを思い出す。
見通しがいいので、車が勢いよく横を通っていくのは日本らしいが。
背後から迫る走行音。もうちょっとゆっくり走ったらどうなんだ。
と振り返ろうとした瞬間だった。
体に硬いものが勢いよくめり込んできた。
何が起きたのか、考える暇を与えない。
アスファルトに強く叩き付けられる。
体がどうなっているか把握できない。
頭以外どこかへいってしまったようだ。
目の前を闇が包もうとする前、走り去るトラックを確認した。
「白石建設」と書かれた文字も。
闇に包まれた意識の中で思い出した。
白石がいった言葉
「ひどい?生かしておいてやったことに感謝してもらいたい」
すずらんが手からこぼれ落ちた。
(おしまい)
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